迂闊だったとしか言えない。

気を抜いていたとはいえ、背後の気配に気づかないほど勘は鈍くないはずなのに、ビクリと身体を震わせて後ずさってしまった。

振り返ったフェレイドの目の前に立っていたのは、白い騎士服の上に紺色のマントをまとった騎士だった。

大広間でセヴェリーニが挨拶を交わした、オルセレイド王国の財務宰相を警護していたあの騎士。

身構えたかっこうのまま目を見開いたフェレイドは、名を呼ばれ、しかも、久しぶりに聞いたその名を受け入れるのに時間を要してしまった。

真面目そうな騎士は固まってしまったフェレイドをじっと見ていたが、幾分表情を緩めてすっと右手を胸にあてた。

「驚かせてしまったようで申し訳ない。挨拶が遅れた。私の名はクレメンス=ハルド=フォルヴァルツ。オルセレイド王国第2騎士団団長を務めている」

その騎士姿を見た時から、第2騎士団団長であることはフェレイドも気づいていた。

オルセレイド王国騎士の中でも、第2騎士団団長のみが着用を許された、紺地のマントを羽織っているからだ。

その第2騎士団団長がわざわざ自分のもとを訪れるとは一体何の用なのか。

フェレイドの心はざわつき、嫌な予感しかなかった。

”フォルヴァルツ家”

その名は聞いたことがある。

オーガスティン家と同様に、武家として名の知られたオルセレイド王国の貴族だ。

だがそれとは別に、『フォルヴァルツ』という名が妙に耳に馴染んでいる気がした。

「フォルヴァルツ殿・・・・・・その、オルセレイド王国騎士の方が俺に何か・・・・・・」

「フェレイド=ローザ=オーガスティン。違うかね?」

家を出て、名を捨てて以来、久しぶりに聞く名だ。

自分の名でありながら自分の名ではないような違和感を覚えた。

「・・・・・・俺はただの剣士ですから、人違いですよ」

思わず動揺し、騎士を直視することが出来ずに視線をそらすが、この騎士にはフェレイドの嘘などすでに見透かされていることだろう。

フォルヴァルツと名乗った騎士は、手を顎にあてると、「ふうむ・・・・・・」と唸った。

「私は君とよく似た人物を知っている」

「え?」

「子供の頃からの友人でね、年齢も私と同じ、貴族学校でも同級生、騎士も同期。騎士としてお互いに切磋琢磨してきた。結婚して子供が出来たあとも、家族ぐるみの付き合いをさせてもらっている」

そこで言葉を切り、騎士はチラッとフェレイドに視線を投げた。

「ランベルト=ハルス=オーガスティン。君のお父上だ」

「・・・・・・」

フェレイドは何も言葉を返すことができず、無言のまま、視線を落とすだけだった。

ランベルト=ハルス=オーガスティン。

その名を聞き、生真面目で厳格な父親の顔が浮かんだ。

だが、フェレイドにとっては『父親』というよりも『家長』という印象がとりわけ強い。

父親らしいことをされたことも、言われたことも、フェレイドの記憶には残っていない。

常日頃から、由緒正しき武家のオーガスティン家の者としてふさわしくあれと、誇りを汚すようなことはするなと散々言われ続けただけだ。

「嫡男の御子息と御息女とは何度もお会いしているが、そうだな・・・・・・次男と会ったのは8歳くらいまでかな。私は素直で賢くて、好奇心旺盛な少年のことが好きだったが、残念ながら以降はあまり会うことがなかった。どうやら奥方の意向らしいが」

「それが俺だと仰るのですか」

「違うのかね?」

問われ、黙りこむことしかできなかった。

しかし、自分でもこれ以上誤魔化しきれないことはわかっていた。

フェレイドは観念し、深くため息をはきだした。

「・・・・・・確かに俺は仰るとおり、フェレイド=ローザ=オーガスティンです」

フォルヴァルツはふっと目元を緩ませた。

「そうか・・・・・・いや、すまない。無理強いはしたくなかったが、あまりにも懐かしい顔を見つけたものでな。もしやと思い声をかけさせてもらった」

「そんなに俺は父に似ていますか?」

3人兄弟の中でも自分が一番父親似だとは子供の頃から言われてきた。

そのためだろうか。

母親は父親に似ている自分よりも、母親に似ている兄をとりわけ可愛がっていた。

夫婦仲は悪いわけではないが、決して良いわけでもない。

親同士が決めた幼い頃からの許嫁だったというが、母親は、生真面目すぎる父親の性格に辟易している感じはあった。

「ああ。若い頃のランベルトと話しているかのようだ。といっても、君のほうが気さくで話しかけやすい印象だがね」

はは、と肩を竦めて笑ったフォルヴァルツの表情からは『騎士』の顔は消えていた。

フェレイドも強張らせていた表情を緩めて少し笑った。

「父は・・・・・・家の者は元気にしていますか」

剣士になってまもなく7年が経とうとしている。

家を捨てて剣士になると決めてから、家のことは忘れようと努めてきたし、忘れたつもりでもいた。

しかし目を閉じれば、脳裏に家族の顔が浮かんだ。

良い思い出ばかりではないが、不思議と嫌な思い出はない。

「ああ、皆、息災だ。ランベルトは現在、第3騎士団の騎士団長を務めている」

「第3騎士団の騎士団長ですか」

オルセレイド王国第3騎士団は、国境と国内各地の警備を担う騎士団だ。

その騎士団の騎士団長とは、歴代オーガスティン家の騎士の中でもかなりの出世といえるだろう。

父親の出世が自分のことのように誇らしかった。

「だが、ランベルトは数ヵ月前に体調を崩してな」

「え」

ギョッと目を見開いたフェレイドに、フォルヴァルツは苦笑して手を降った。

「いや、大丈夫だ。命に関わるようなものではない。長年の疲労がたまっていたのだろう。我々くらいの年齢になると、砦での1ヶ月間の任務は体力的にも辛くなってくるものだ」

「そう、ですか・・・・・・」

命に関わることではないと知り、ホッと胸を撫で下ろした。

家名を捨てた身ではあるが、やはり家族のことは心配だった。

「それもあり、ランベルトはそろそろ騎士団長を副騎士団長に譲ろうと考えているようだ。若手の騎士も育ってきているからな。同じ者が同じ地位に長く留まっていては、下の者の士気も下がると言っていた。私も同じように考えていたところだったから、騎士団退役の時期も同じかと笑いあったばかりだ」

「フォルヴァルツ殿も騎士団を辞められるのですか?」

「ああ。この遠征が終わったらな。総騎士団長にもすでに辞意を申しあげている」

「そうですか・・・・・・長年のお勤めお疲れ様でした」

フォルヴァルツは目を細め、フッと笑った。

「ありがとう。しかし、騎士団を退役して悠々自適な隠居生活でもしようかと考えていたのだが、実は貴族学校で武術指導をしてくれないかと、ランベルトも私も頼まれてしまってな。真面目なあいつは『後進を育てるのも騎士の務め』と迷うことなく引き受けてしまったものだから・・・・・・断ろうにも断れなかったよ」

肩を竦めて笑ったフォルヴァルツに、フェレイドもつられて笑ってしまった。

「そうそう。先日、ご長男にお子が誕生したばかりだ」

「兄にですか?」

フェレイドと5歳離れている兄が結婚をしていても不思議ではないのだが、なぜかとても奇妙に思えた。

7歳年上の姉は、フェレイドが家を出たときすでに他家に嫁いでいたから、とくに違和感はないのだが。

「生まれた子は男子だったから、奥方の喜び様はそれはもう大層なものだったそうだ。何しろ、待望の跡継ぎだからな」

「それは・・・・・・おめでたいことですね」

胸の奥が苦しくなったが、フェレイドはそれを隠して朗らかに笑った。

「ああ。堅物のランベルトも、さすがに嬉しそうだったな」

兄の子が誕生し、その子はオーガスティン家にとって次代の跡継ぎになる。

名門武家のオーガスティン家の将来も、これで安泰だろう。

そうなると、ますますオーガスティン家にフェレイドという存在は必要ない。

一生涯戻らないと誓ったのに、自分だけが置いてきぼりにされたような気がした。

「しかし、騎士団での最後の任務と決めた遠征でランベルトの御子息に会うことになるとは、なんとも奇遇なことだな。家を出たと聞いてはいたが、まさかあの、セヴェリーニ=ローザラン付の剣士になっていたとは二重の驚きだ。このことを知れば、ランベルトも誇らしく思うことだろう」

うんうんと頷いたフォルヴァルツにフェレイドは慌てた。

「そのことですが、フォルヴァルツ殿。父には、いえ、父にも家の者にも、俺と会ったことは話さないでいただけませんか」

フォルヴァルツは何度かまばたきをした後、訝しげに首をかしげた。

「なぜだ?ランベルトも安心するだろう」

「いえ。俺はただの『フェレイド』という名の剣士にすぎません。剣士になったときからオーガスティン家の名は捨てましたから、すでに俺は居ない存在なのです。それに、今更俺のことを知ったところで、父はけっして喜ばないでしょう」

勝手に家を出たフェレイドのことなど、父が許しているわけがない。

だが、フォルヴァルツは苦笑し、ゆっくりと首を振った。

「君はランベルトから愛されていないと思っているのかね?」

「・・・・・・少なくとも、俺には両親から親らしいことをしてもらった記憶はありません。母も姉も兄にばかり気をかけていましたし、父は留守がちで屋敷に居ないことが多く、たまに帰ってきても声をかけられることはありませんでした」

自分よりもずっと身体の大きな父は、フェレイドと対等に視線を合わせることもなく、いつも真上から冷やかな視線で見下ろしていた。

そのような父親のことを、フェレイドはいつも怖いと思っていた。

「まあ、俺はけっこう自由に生きてましたから、そのことを寂しいとは思っていませんが」

自嘲気味に言うと、フォルヴァルツは困ったように笑った。

「・・・・・・ランベルトは昔から不器用な男なんだ。子供に対してどのように接すればいいかわからないと言っていたな」

「え?」

「昔からあまり人と接するのは得意なほうではなくてね。男前だから女性からは大層好かれるのに、その好意に気づかず、そっけない態度をとって泣かせてしまうこともしばしばだった。何事にも生真面目すぎるんだよ、ランベルトは」

フォルヴァルツは遠くを見てふっと笑う。

自分が知らない父親の話を聞くのは初めてで、なんだか他人のことを聞いているような奇妙な感じを覚えた。

「奥方や子供に対しても同様だったな。夫として父親としてよりも、まずはオーガスティン家の後継者として、騎士であることを何よりも最優先にしてきた。子育てに関しては私も偉そうに言える立場ではないが、家のことはすべて奥方に任せっきりだったようだ。だから奥方が、嫡男である兄上には偏愛、君には冷淡とも思えるような教育をすることに関して、口を挟まなかったらしい」

「・・・・・・」

父は気づいていたのだ。

それならば、なぜ手を差しのべてくれなかったのか。

恨みがましい感情が波のように広がっていく。

胸の奥がチリッと痛み、思わず胸元を握りしめていた。

「もちろん、ランベルトはそれを良いと思っていたわけではない。兄上と同様に、君にもオーガスティン家の者として立派に騎士の勤めを果たして欲しいと願っていた。だから、騎士として貴族として十分な教育は受けさせたいと思っていたようだ」

騎士として、貴族としての教育?

しかし、フェレイドの記憶にはそのようなものは残っていない。

「君は・・・・・・兄上の家庭教師などに、密かに教えを請うていたのだろう?」

「っ!」

フェレイドの戸惑いを見透かすように、フォルヴァルツはにやりと笑った。

「父はご存知だったのですか?」

フェレイドは小さく息をのんだ。

「当然だ。知られていないとでも思っていたのかね?彼らからランベルトに全て報告が上がっていたそうだ。しかしそれを咎めることなく、ランベルトは君の好きなように、できうる限りのことはさせていたようだ」

「・・・・・・」

こっそりと兄の家庭教師に教えを受けていた自分は、親の目を盗んでうまくやっていると思っていたのだが、どうやらそれは自惚れだったらしい。

子供の思い上がりだったとはいえ、急に恥ずかしさがこみあげてくる。

どのような顔をすればいいかわからず、手の甲で口元を覆い隠してしまった。

「屋敷を抜け出し下町に行っていたことも当然わかっていた。そのうえで見逃していたようだ」

「・・・・・・それは俺のことを何とも思っていないからではないですか?」

「それは違う」

フォルヴァルツは眉をひそめ、ゆっくりと首を2度振った。

「ランベルトは顔には出さないが、君のことも、もちろん姉上や兄上のことも大切に思っていたよ。とりわけ、君のことは特に気にかけていたようだ」

「俺をですか?」

「ああ。立派な騎士になると期待していたようだ。だが、成長するにつれ、君と兄上の差が顕著になってきた。好奇心旺盛で、素直で、記憶力のいい君は、ありとあらゆる知識を吸収していく。さらに、努力家で器用な君は剣術や体術、馬術にも秀でていた。ランベルトが理想とする騎士へと、長男ではなく次男である君が近づいていったのだ」

「ですが兄は・・・・・・」

「もちろん、兄上も嫡男としての努力はされていた。そのことはランベルトも良くわかっている。だが、文官ならば努力すれば何とかなったのだろうが、武官はそうはいかない。差は埋まるどころか益々広がっていく。周囲も徐々にそれに気づき始めた。そして・・・・・・その頃から、君は頻繁に屋敷を出るようになった」

「それは・・・・・・」

「君は遠慮をしたのだろう?兄上のことを気遣い、周囲の目が自分に向かないようにと。だから家も出た。違うかね?」

兄のことは嫌いではなかった。

兄が自分のことを嫌いでも、フェレイドは嫌いにはなれなかった。

「・・・・・・父は、俺の行方を探していましたか?」

「いいや」

少しは期待したのだが、それはあっさりと裏切られた。

「だが、誤解はしないでほしい」

「え?」

「それも、君のことを思ってのことだ」

「俺のことを・・・・・・ですか?」

「うむ。奥方や親類は君を探そうと躍起になったそうだが、ランベルトは探す必要はないとそれを止めたようだ。私も最初はランベルトの意図が理解できず、何故探さないのか、心配ではないのかと問い詰めたのだが・・・・・・」

フォルヴァルツは何かを思い出したのか不意に目を伏せ、息を小さく吐きだした。

「ランベルトは私にこう言ったのだ。『あれは家に縛られず、自由に生きるほうが性に合っている。あれが望む道ならば、信じた道を進めばいい。どのような困難がおとずれようとも、自らの道を切り開く力は十分にもっている。ゆえに、私は何も心配していない』」

心配していない。

それこそ自分のことを何とも思っていないのではないか、厄介者が出て行って清々しているのではないかと、少し前のフェレイドなら言っていただろう。

しかし、いつまでも強固に言いつづけられるほど、察しの悪い男ではないつもりだ。

父は、フェレイドのことをすべて理解したうえで、オーガスティン家から出て、1人で生きる道を認めてくれたのだ。

期待を裏切ったのは自分のほうなのに、それを咎めることもなくフェレイドの旅立ちを赦してくれた。

それがフェレイドにとって最良の道だと信じて。

父親に対する何とも言いがたい複雑な感情が渦巻き、気持ちの整理がつかなかった。

「君が13歳になる少し前くらいだっただろうか。何かひとつだけでも、兄弟とは違うことを君にしてやりたいとランベルトから相談されたことがあった」

「え?」

「その剣。それはランベルトが贈ったものだろう?」

笑顔でフォルヴァルツが指したのは、フェレイドの腰に提げられた剣だった。

「そう、ですが・・・・・・」

「やはりな。その剣を今でも使い続けていることを知れば、ランベルトも喜ぶことだろう」

「剣を?」

この剣はフェレイドが13歳の誕生日に父から贈られたものだ。

幼い頃のフェレイドには少し大きくて、片手だけで持つことはできなかった。

まさか父から贈り物をもらえるとは予想していなかったので、驚きと戸惑いはかなりあったが、ずしりと重い剣を父から授かり、嬉しさと誇らしさを感じたのも事実だ。

黒の鹿皮が巻かれた鞘には装飾らしい装飾はほとんどされていない。

だが、金具部分は全て銀製で、目立たない部分にさりげなくオーガスティン家の家紋が彫刻されている。

質素ながらも、一目で品の良いものだとわかる。

柄の握り部分は成長に従って何度か修正はしているが、それ以外は当時のままだ。

「ランベルトから相談を受けたとき、将来、オーガスティン家の者として恥ずかしくないような剣を贈ってはどうかと提案したのだ。しかしそれがまさか、シュレーゲルの剣とはね。いやはや、驚いたよ」

フェレイドの剣に刻まれている鍛冶師の銘。

ルイ=シュレーゲル。

今は亡き、オルセレイド王国の名鍛冶師として知られる人物の名だった。

初めてそのことを知ったときはフェレイドも驚いたし、自分には分相応ではないかと気後れもした。

しかし、この剣を1度手にしたからには、この剣の主にふさわしくあろうと必死に身体を鍛え、必死に剣の腕も磨いてきたつもりだ。

最高級の鋼で、幾度も打たれて鍛えあげられた上質な剣は、少しも切れ味が鈍らず、今まで1度も刃こぼれしたことがない。

長年かけて使い込み、幾度も研きを重ねてきたこの剣は、己の命にも等しい、己の分身である剣だ。

「・・・・・・父とは子供の頃からの友人とのことですが、フォルヴァルツ殿は随分と我が家の事情に詳しいのですね」

片眉をあげ、フォルヴァルツは苦笑いをする。

「まあ、ランベルトが気兼ねなく相談できる相手が私だけだからだろう。逆に、私が相談できる相手もランベルトだけだ。ずいぶんと偉そうに言っているが、私自身も息子とは何度も喧嘩をしたし、妻や娘を泣かせたのも一度や二度のことではない。そのたびにランベルトに相談したものだ。彼も我が家の事情は詳しいぞ」

「お二人は親友なのですね」

「はは、まあな」

気を許し、何でも相談できる『親友』と呼べる相手がいる。

フェレイドには命を預けられる『仲間』はいるが、全てを包み隠さず話せる『親友』はいない。

父とフォルヴァルツの関係は、正直羨ましかった。

「そんなランベルトの親友である私から君へのお願いだ。ランベルトの思いを・・・・・・父上の気持ちを少しでもわかってやってくれないだろうか」

腰に提げた剣にそっと触れると、何か温かいものが伝わってくるようだった。

この剣に込められた父の深い思い。

不器用な父がフェレイドに贈った最大限の愛情。

それに気づかず、知ろうともせず、フェレイドは無意識のうちに目を背けていた。

「そう・・・・・・ですね。俺も父に対して少し意地になっていたようです。反省しました」

「・・・・・・そうか」

「父には・・・・・・俺のことを話してくださって結構です。まあ、何とか元気にやってますというくらいで構いませんよ。ですが、母に知られると何かと面倒そうです」

天下の魔術師セヴェリーニ=ローザラン付きの剣士。

母親がそのことを知れば、手のひらを返してフェレイドに干渉してくるのではないだろうか。

出来ればそれは避けたいのだが。

「とりあえず、ランベルトには伝えよう。どうするかはランベルト次第だ」

「はい。ありがとございます」

フォルヴァルツの手がフェレイドの肩にぽんと置かれた。

その眼差しは、まるで息子を見守る父親のように優しげだった。

父親と同い年というフォルヴァルツと話していると、不思議と父親と話しているような気分になる。

フォルヴァルツのほうが父親よりは数倍も気さくではあるが。

子供の頃はまともに父親と話したことはなかったが、大人になった今ならば素直に話せるだろうか。

フェレイドは穏やかな気持ちで小さく笑っていた。