「・・・・・・レイド。フェレイド」

「え?あ、ああ」

名を呼ばれ、何度か腕を揺すられて、ようやく我に返った。

慌てて意識を戻すと、宝石のごとく煌めく紫の瞳がフェレイドを見上げていた。

「えーと、ああ、どうした?」

「どうしたではありません。先程からずっと上の空ですよ。話、聞いていましたか?」

セヴェリーニがむうっと口を尖らせて睨んでいた。

「ああ、いや、聞いてなかった。何の話だ?」

焦ったフェレイドは誤魔化すように笑ったが、更に強く睨まれてしまい、諦めて息を吐く。

「すまない・・・・・・悪かったよ」

「おいおい、大丈夫かあ?せっかくおまえの恥ずかしい失敗談を語っていたのになあ」

がははと大きな笑い声に顔を向ければ、右手に酒杯を持ち、左手に骨付きの肉を持ち、その肉に豪快にかぶりつくマルティンがにやにやと笑っていた。

髭に油が付くのもお構いなしだ。

その様子に、フェレイドは苦々しげに顔をしかめる。

「頼むから・・・・・・もう少しきれいに食べてくれないか」

「ああん?何言ってんだよ!おまえみたいにお上品に食べていたら、ふくらむ腹もふくらまないだろうが!」

肉を頬張ったまま大口を開けて笑うマルティンに、フェレイドは頭が痛くなりこめかみを押さえた。

王城にて泊まった翌朝、国王の申し出のとおり騎士に先導されて宿まで送られ、セヴェリーニはまたもや大騒動を巻き起こしてしまったのだが、マルティンが宿を訪れた昼頃にはなんとか落ち着きを取り戻していた。

食堂の一番端のテーブルに陣取ったフェレイドたちの周囲に、ほかの客の姿はない。

彼らは遠巻きに座りながらもこちらを気にしており、痛いほどの視線が突き刺さっていた。

しかし、彼らには背を向けたセヴェリーニはそんな視線など見向きもしないし、マルティンは気づいてもいない様子だった。

気にしているのはフェレイドだけだ。

「しっかし、さっきからボーッとして、どうしたんだ?。場違いな王城に行って気後れしちまったのかあ?」

「そんなんじゃないって」

「昨夜からずっとこの調子なんですよ。フェレイド、何かあったのですか?」

「いや、べつに。それより、俺の失敗談って・・・・・・」

なんとか話題を変えようとするのだが、それを阻むように鋭い眼差しが突き刺さる。

「嘘です。なかなか私の部屋に来ないから、こちらからフェレイドの部屋に出向いたのに、貴方は灯りも点けずに考え込んでいたでしょう?」

「灯りも点けずに?うっわ!暗っ!」

「うるさいな」

ぐびりと酒をあおったマルティンを睨むが、マルティンは気にせず肩を揺らして笑った。

「フェレイド」

がしっと腕を掴まれまっすぐ見上げてくるセヴェリーニの視線は強く、誤魔化そうとするフェレイドを許さないものだった。

「大したことじゃないよ」

「ではなぜ、ずっと上の空なのですか?」

「それは・・・・・・」

「おーい、話してやれよ。ローザラン殿はさっきからおまえに何度も話を振っていたんだぞ。なのにおまえは生返事しかしないしさあ」

にかっと笑うマルティンから視線を戻せば、神妙な顔つきのセヴェリーニと視線が合った。

どうやら、セヴェリーニなりにフェレイドのことを気遣ってくれていたらしい。

それに気づかないほど、物思いにふけっていた自分にも驚かされる。

「悪かったよ・・・・・・」

フェレイドは深くため息を吐き、髪をかきあげた。

いつまでも誤魔化しきれる相手ではない。

「その・・・・・・昔の・・・・・・知り合いに会ったんだよ」

「昔の?」

それは思いもかけなかったらしく、きょとんとなったセヴェリーニは小首を傾げた。

そのあまりにも可愛い仕草に、マルティンがにへらと笑ったのが目の端に入った。

「昔の知り合いって・・・・・・王城でですか?」

「ああ、まあ・・・・・・」

マルティンも興味津々という顔で身を乗り出してきた。

「へえ?王城で昔の知り合いと?そりゃ、偶然とはいえ驚きだな。知り合いって、どういう知り合いだ?男か?女か?」

「男性だよ」

「へえ?剣士になってからの知り合いか?」

「いや・・・・・・」

一瞬言葉を詰まらせて目を伏せたフェレイドの様子にマルティンはすぐに察したようだ。

さすがにオルセレイド王国の騎士だとは言えなかった。

なぜだかわからないが、それを言うのには躊躇いがあった。

「なるほどなあ。剣士になる前の知り合いってことかあ・・・・・・そりゃあ、けっこう前の知り合いなんじゃないのか?おまえが剣士になったのは16,7歳くらいだろ?」

「ああ。それに、俺の知り合いというよりは・・・・・・父親の知り合いだ」

「父親?」

先ほどまでの茶化した口調ではなく、マルティンは急に真面目な顔つきになった。

「子供の頃に会ったらしいが、俺には記憶はないんだ。その人も、俺が若い頃の父親に似ていたから、『もしや』と思って声をかけたらしい」

「へえ?しかし・・・・・・過去はお互い聞かない、てのが剣士の不文律みたいなもんだからな、俺もおまえの過去はよく知らないが・・・・・・」

「まあ・・・・・・隠すような過去でもないけどな」

苦笑するフェレイドに、だが、セヴェリーニはじっとこちらを見つめたまま言葉を発しない。

どうやら、セヴェリーニにとっても、フェレイドの過去が関わっていたことは予想外のことだったらしい。

「剣士になったからには過去は必要ないからな。この剣だけで、己の力だけで生きていく・・・・・・そう、決めた筈だったんだ・・・・・・」

はあ・・・・・と深く息を吐いたフェレイドだったが、腕を掴んでいたセヴェリーニの指に力がこめられたことに気づいて視線を落とす。

「セヴェリーニ?」

「その方に・・・・・・貴方を惑わすような何かを言われたのですか?」

「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ、セヴェリーニ」

セヴェリーニの誤解を打ち消すために慌てて手を振った。

「むしろ・・・・・・感謝している。その人に会わなければ、俺はずっと父親のことを誤解したままだったから」

「誤解?何を誤解していたんだ」

「・・・・・・父が俺のことを何とも思っていないと・・・・・・俺はずっと誤解していたんだ」

フェレイドは、腰の右側に提げている剣にそっと触れた。

父親から贈られた剣。

フェレイドに対する深い思いが込められた、重い重い剣だ。

「ふうむ・・・・・・なるほどな。親父さんとの確執かあ・・・・・・まあ、俺はずっと昔に親を亡くしたんだが、確かに子供の頃は随分と親父に反発していたなあ」

珍しく神妙な顔つきで、マルティンは髭をなでながらどこか遠くを見ていた。

マルティンも過去を思い出しているのだろうか。

「いや・・・・・・俺はべつに親に反発していたわけじゃないんだ。親もべつに俺に構うことはなかったし、どちらかというと放任されていたと言ってもいいかな。その点は気楽だったから、好きなようにさせてもらっていた。・・・・・・不満があって家を出たわけではないんだ」

「へえ?じゃあ、何で家を出たんだ?」

「・・・・・・それ、なんだよな」

「ん?」

フェレイドは肘をテーブルにつき、甲に顎を乗せて深く嘆息した。

「俺は父親の期待を裏切って家を出た・・・・・・それなのに、父は俺が選んだ道を進めばいいと許してくれていたんだ・・・・・・」

「へえ?いい親父さんじゃないか」

「ん・・・・・・だが、そのことを知って・・・・・・改めて考えてしまったんだ。俺は一体何のために家を出たのだろうかと・・・・・」

「家を出た理由がわからないっていうのか?」

「いや・・・・・・多分、俺は逃げたんだろうな」

「何からですか?」

掠れた声に視線を落とせば、フェレイドの左腕を掴んだままのセヴェリーニだった。

「さあ・・・・・・何だろうな。全てからかな」

嫡男である兄を思い、自らが姿を消せば、全てがうまくおさまると思っていた。

だがそれは、所詮逃げであり、欺瞞に過ぎなかった。

結局は現実に向き合うことが怖くなり、全てを兄に背負わせ、責任から逃れようとした己の弱さだ。

苦笑して返せば、セヴェリーニは一瞬視線を合わせて、すぐに目を伏せてしまった。

「家から逃げて剣士になったというのに・・・・・・俺は何のために剣士になったのだろうか。何のために剣士であり続けるのだろうか・・・・・・そのようなことばかり考えてしまって・・・・・・はは、馬鹿みたいだな」

「ふうむ。剣士になった理由ねえ・・・・・・まあ、人それぞれだよなあ」

腕を組んで椅子の背にもたれたマルティンは、椅子の足をギシギシ鳴らしながら天井を見上げた。

「マルティンは?なぜ剣士になったんだ?」

「俺か?」

マルティンの過去にいままで特に興味があったわけではないが、傭兵として戦場で勇敢に戦い続けるこの男の生き様に、他の剣士同様、憧れていたのも事実だ。

「そんな格好いいもんじゃねえぞ。俺が剣士になった理由か?理由は単純明快!金のためだ!」

「か・・・・・・金?」

「おうよ!」

ガッハッハッと大きく口を開けて肩を揺らしたマルティンに呆気にとられるが、この男らしいといえばらしい理由に、フェレイドも苦笑しつつも吹き出していた。

「ははっ。たしかに単純だな」

「まあな!俺にはとにかく金が必要なんだよ。じゃあ、どうやって稼ぐかって考えたときに、すぐに傭兵になることを思いついた。何しろ昔っからこの体格だからなあ。これを活かした仕事で金を稼ぎたかったんだ。手っ取り早く稼げる盗賊に誘われたこともあったがな。そこは俺のなけなしの良心っていうか、汚い金は欲しくなかったからな。俺はいつでも正々堂々!真っ向勝負で生きてきた男だ」

「金が必要って・・・・・・貯めているのか?」

マルティンが剣士になった理由は『金』と言うが、この男に『金』の気配は全くといっていいほど感じられない。

だらしがない男であるは、金銭に対してがめつい印象はないのだが。

「んん〜・・・・・・まあ、おまえになら話してもいいか」

「よしっ」と勢いよく声を出すと、身を乗り出してきたマルティンはにかっと笑う。

「俺にはな、カミさんとガキがいるんだよ」

「・・・・・・・はっ!?」

肩を揺らし、自分でも驚くほど素っ頓狂な声が出てしまった。

「はっはー!驚いただろ!」

「・・・・・・え?ちょっ・・・・・待て・・・・・・え?おまえ、結婚しているのか?」

「ん〜・・・・・・いや、わけあって正式に結婚したわけじゃあないんだが、へへっ、事実婚ってやつだな。娘たちがこれまたカミさんに似て美人でよ〜。いや〜、可愛いったらありゃしない」

「娘って・・・・・・娘たち?いっ、痛っ!おい、セヴェリーニ!」

鋭い痛みが腕に走った。

セヴェリーニの爪が腕に食い込んでいたためだが、セヴェリーニは紫の瞳をこれ以上ないくらい大きく見開いてマルティンを凝視していた。

どうやら、セヴェリーニも相当驚いているらしい。

無理もない。

この熊のように図体の大きい髭面の男に、まさか配偶者や子供がいたとはだれが想像できただろう。

その事実に、フェレイドですら驚愕しているのだ。

「おまえに子供がいたなんて初めて聞いたぞ?」

「そりゃあ、初めて話したからな。誰にも話したことねーよ」

ふふんと笑ったマルティンの顔は、妙にすがすがしいものだった。

「家族のために金が必要なのか?」

「まあな。なんとかカミさんは買い戻したから、あとは娘たちだけだ。娘たちも買い戻せたら、故郷に帰って4人で暮らすつもりなんだぜ」

「え・・・・・・?」

『買い戻す』という言葉の意味が理解できなかった。

だが、マルティンはなんでもないことのように笑っている。

「『買い戻す』というのは・・・・・・どういう意味だ?」

「ん?買い戻すっていうのは、買い戻すってことだろ。おまえ、頭いいくせに何言ってるんだよ。カミさんはな、身売りさせられたんだよ・・・・・・借金のかたにな」

最後は笑顔をすっと消し、低い声で忌々しげに言い放った。

「借金のかた?」

「ああ・・・・・・昔、俺の故郷で原因不明の疫病が流行ってな・・・・・・ばったばったと人が倒れて、数日もしないうちに衰弱して死んでしまった」

「疫病か・・・・・・」

「疫病の原因を突き止めるまでに半年、さらに、疫病が収束するまで数か月かかっちまった。その間にその地方の6割近くが死んだ。年寄りや子供はほぼ全員・・・・・・」

「原因は?」

「・・・・・・魔物だったらしい」

「魔物?」

セヴェリーニを見れば、セヴェリーニもちらっとこちらを見た。

「人間に害をなす疫病や毒をまき散らす魔物は少なくありません」

「そう・・・・・・なのか」

「中には視認できない魔物もいます。弱った人間に取り憑き、人間の精気を喰らうのです」

「視認できないって、『見えない魔物』ということか?どうやって魔物を滅するんだ」

だが、セヴェリーニの答えはあっさりとしたものだった。

「できますよ?魔術師ですから」

「・・・・・・」

答えになっていないようだが、つまりは、常人であれば視認できない魔物を、魔術師であれな視認できるということのようだ。

「俺の故郷を襲った魔物も、どうやらその『見えない魔物』だったらしい。俺たちは何とか報酬金を捻出して魔術師に来てもらったんだが・・・・・・」

マルティンは忌々しげに舌打ちした。

「その魔術師は冷たい奴でさ・・・・・魔物を滅するだけで、さっさと帰っていきやがった。病に苦しむ人々や、荒れた村のことなどどうでもいいという感じだったな・・・・・・魔術師と一緒に来ていた剣士のほうが、色々と俺たちのことを気にかけてくれていたよ」

セヴェリーニにちらっと視線を向けると、『それが何か?』という淡々とした表情で肩を竦めただけだった。

魔術師が優先すべきことは魔物を滅すること。

なによりも魔穴を封じることが最優先。

ゆえに、流行り病に侵された人々のことなど、魔物さえ滅してしまえば、魔術師にとってどうでも良いことなのだ。

国を傾けるほどの流行り病ともなれば、魔術学院へ魔術師動員の要請はかかるかもしれないが、一地方で起こった流行り病に彼らが力を貸すとはおもえない。

魔術師たちは、人々が思い描くほど慈悲深くはないのだから。

「元々、俺の故郷は貧しい地方だったんだ。魔術師が来た時点で金は底をついていたし、村を再建するための金も必要だった。魔術師に支払う報酬も含め、村人は皆、生き残るために借金をするしかなかったんだ・・・・・・」

「それが、借金のかた?」

「そゆこと」

指を鳴らし、マルティンは片目をつむって笑った。

だが、その笑顔にはいつもの豪快さはなかった。

「若い女性は未婚既婚関係なく売られていくことになった。俺の・・・・・・カミさんもな」

「・・・・・・」

何と返せばいいのかわからず反応に困ったが、マルティンは気にせずににかっと笑った。

「カミさんは村長の娘だった。俺とは幼馴染でな、へへっ、けっこう互いに好きあっていたんだぜ?けど、女が売られていく先ってのは・・・・・・いつの時代も同じさ」

そういえば、とフェレイドは思い出す。

確かマルティンは、ここアーベルラインに贔屓の娼館があると言っていなかっただろうか。

「おまえが贔屓にしているという娼館が確かあったな?」

「おっ!さっすが察しがいいな!そうそう!カミさんと娘が世話になっているのが、この街随一の高級娼館『青の薔薇亭』さ」

「世話になっているって・・・・・・」

妻と娘が借金のかたになっているというのに、随分と軽い言い方だった。

「いやいや、本当に世話になっているんだって。娼館のおかみが良い人でな。まあ、俺が金払いがいいからかもしれないが」

「はあ・・・・・・」

「俺は売られたカミさんを取り戻そうと金を稼ぐために剣士になって、20歳頃かな、ようやく『青の薔薇亭』へ入られるまでに認められたんだ。俺はカミさんを買い取ったんだが、そのときはまだ身請けできるほどの金額は用意できなかった。俺の専任となる権利を買い取ったようなものかな。しかし、高級娼館に一泊するだけで、毎度毎度とんでもない額の金が飛んでいっちまうからなあ。そりゃあ、必死になって金も稼ぐさ。だが、はは、それから数年後に、なーんと二人も娘ができてしまってなあ。しかも、双子だ!いや〜、可愛いのなんのって!」

ガシガシと髪をかいて照れ笑いする髭面の男というのはなんとも面妖だ。

フェレイドは乾いた笑いを返すだけだった。

「しかしあの婆さん・・・・・いや、娼館のおかみは、娘たちは館で生まれたのだから館の者だ。育ったあかつきには店に出すとかぬかしやがって!くっそお、魂胆は見え見えだぜ!俺から金をむしり取ろうとしているんだぜ!」

ガンッと勢いよくテーブルを蹴りつけたマルティンに、食堂中にいた人々が驚いて振り返った。

「ちょっ・・・・・落ち着いてくれ」

「ふんっ・・・・・・ま、がむしゃらに稼いで、なんとかカミさんは身請けすることができたんだが、娘のために娼館に残りたいと言ってな。今はさすがに店には出ていないが、娘のほかにも、身売りされてきた若い少女たちの教育や、面倒をみてあげているようだ。自分も借金のかたに身売りされてきたから、少女たちの辛い気持ちがよくわかるし、母親のように相談にも乗ってやってるらしい。どうだ?いいカミさんだろ〜?」

「まあ・・・・・・そうだな。おまえには勿体ないほどだ」

「そうだろそうだろ」

嫌味のつもりだったが、この男には少しも通じなかったようだ。

「ま、そういう理由で俺は剣士を続けているわけだ」

「娘さんも身請けできたら故郷に戻るんだろ?剣士はやめるのか?」

「いや。家族を養わないといけないからな、剣士は続けるさ。それに、俺が剣士をやめられるわけがない。血がたぎる戦いを常に求めてしまうのは、まあ、俺の性分みたいなものさ」

ガッハッハッと肩を揺らして笑うマルティンは、しかし、ただ剣を振り回すだけの単純な男ではなく、家族のためという思いを抱いて戦場を駆け抜ける、熱い男だったのだ。

強い信念を抱くマルティンのことが羨ましかった。

「ま、これで、俺の話はおしまい!それで?フェレイドはなぜ剣士になったんだ?」

話を再び自分に振られ、フェレイドはうっと言葉を詰まらせた。

フェレイドにはマルティンのような目的があって剣士になったわけではない。

ただなんとなく、漠然と、剣士になろうと決めただけ。

「わからないんだ・・・・・・なぜ俺は剣士になったんだろうな・・・・・・」

「おいおい、大丈夫かよ。目的もなく剣士やってても意味ないだろ」

「まあ、そうなんだが・・・・・・」

目的が見えない道の先は暗闇で、どこへ向かっているのかもわからない。

行き止まりかもしれないし、1歩道を踏み外せば、そこは谷底かもしれない。

『あれが望む道ならば、信じた道を進めばいい。どのような困難がおとずれようとも、自らの道を切り開く力は十分にもっている』

家を出たフェレイドに対して、父はそのように旧知の友に語ったという。

しかし本当だろうか。

自分には、父が思うような力が本当にあるのだろうか。

答えが見つからず、無様にもがく自分はとても情けなかった。

「フェレイド」

「ん?」

腕を揺すられて視線を向けると、セヴェリーニがふわりと微笑みを浮かべた。

「貴方が剣士になった理由を思い付かないと仰るのであれば、私と会うために、剣士になったと思われてはいかがでしょうか?」

「・・・・・・は?」

「ええ、そうです。きっとそうです。フェレイドは、私と会うために剣士になったのですよ。そして、貴方は私を護る剣士となった。ならば、これからも私を護る盾と剣として、私の側で、共に道を進まれてはいかがでしょうか?」